日本の公務員の待遇は良いのか悪いのか?

社会実情データ図録」様の「OECD諸国の公務員給与水準」という図録が発表されたときには現状の公務員待遇に関して擁護派、否定派双方から様々な反響を呼んだ。



図は公務員数の労働人口に対する比率と公務員給与のGDPに対する比率をプロットされている。日本は公務員数比率が約5%と最も少ない国の一つとなっており、更に公務員給与のGDPに対する比率についても、近似式が予測する値よりも低く、

この図は日本の公務員が公務員以外と比較して恵まれているかどうかを示したものではない。日本の公務員が給与的に恵まれているとしたら、それでも、海外の公務員が恵まれている程度以上ではないことを示しているのである。

と指摘されている。


この図を基に公務員給与水準の擁護派は「日本の公務員待遇は他国と比べて特別に高いわけではないことが示されている」、否定派は「この図の近似直線は各国の公務員が同待遇であることを示しているわけではなく、比較として不当である」と主張し、特に後者の批判に対しては補足の説明が付け加えられた。

図を見れば、日本の公務員比率は5%であるのに対して、給与比率は6%となっている。ところが、スウェーデンでは公務員比率28%であるのに対して給与比率は15%である。労働分配率(国民所得に対する雇用者報酬の割合)はどの国も7割前後であることを考えると、日本の公務員の1人当たりの給与水準は相対的に高いと結論づけられる。日本の公務員の給与が雇用者全体と同じ水準であれば、5%×0.7=3.5%しか給与比率がならない筈であるのに、実際の6%はこれの1.7倍(6%÷3.5%)なのである。スウェーデンは同じ値が0.8倍(15%÷19.6%(=28%×0.7))なのだ(国民所得をGDPと同じとし労働分配率を0.7で計算)。

従って、いわゆる省庁や役場・役所職員など本来の公務に公務員の範囲が限られて来るのに応じて、相対的な給与水準は高まっていくのがOECD諸国の一般傾向であることを図の1次近似線はあらわしていると考えられる。こうした傾向のなかで日本の公務員が恵まれた給与を得ているとして、その程度が一般傾向から見て特段に恵まれている訳ではないと当初のコメントは云っているのである。


この図についてネットで行われた議論の多くは日本の位置についてのものであったが、筆者がこの図をみて気になったのはむしろノルウェーである。 上記の計算に当てはめれば、ノルウェーの公務員給与は全雇用者平均の約6割であり、公務員を除く民間就業者平均と比較すると5割程度しかないことになる。(以下に上記の前提に基づいた各国の公務員給与水準の全雇用者平均との比をプロット)



ノルウェーにもコア公務員と呼ばれる高給取りは当然いるだろうから、多くの公務員は実際には民間の5割以下、恐らく3-4割程度の給与で働いていることになる。ノルウェーの公務員はそれで納得しているのだろうか? 又、そこまで差があっても公務員の人材に不足が生じないのだろうか?

公務員に対する特別な優遇措置でもあるのかと調べてみたが、そこで分かったのはノルウェーの公務員待遇が民間と比較して著しく悪い事実は無いことである。 以下Statistic Norwayにあったデータでフルタイムの労働者のみを対象としているが、全体として公務員の待遇がそこまで大きく劣っているという傾向は見えない。


http://www.ssb.no/english/subjects/00/minifakta_en/jp/main_05.html.utf8


つまり上記の計算の前提として用いた「国民所得に対する雇用者報酬の割合はどの国も7割前後」という部分が疑わしい事になる。
そこでこのデータを補正すべく各国の全雇用者報酬の対GDP比データを探してみたが適当なものが見つけられなかったので、大和総研のレポート内(参照:PDF)のグラフからざっくりと全雇用者報酬の対GDP比を計算し、再度同じ図を作成した。



このグラフでは北欧諸国では公務員の平均給与がほぼ全雇用者の平均給与と同じになり、上記のノルウェーのデータとも齟齬はなくなっている(注1)。つまり公務員割合が大きくなるほど公務員の平均待遇は民間の平均待遇に近づいていくということになり、個人的にはより納得しやすいように思う。

(また興味深いのはギリシャ、メキシコの倍率が大きく上がっていることで、ギリシャが公務員天国なのは今回のギリシャ危機で盛んに報道された事実であるが、メキシコはどうなのかは少し調べてみたが良く分からなかった。)


ちなみに筆者がこのデータを自分でも見直してみたのは、日本の公務員待遇が他国の傾向から離れていない(むしろ下回っている)という分析が意外だったからであるが、新しいグラフでも日本は概ね全体のトレンドから離れておらず、「こうした傾向のなかで日本の公務員が恵まれた給与を得ているとして、その程度が一般傾向から見て特段に恵まれている訳ではないと」という分析はこのデータ解析の範囲内でも有効なようである。


(追記)
只、日本の公務員待遇がOECD諸国内の傾向からは乖離していないとしても日本の公務員の給与体系についてはやはり見直す必要があるのではないかと筆者は考えている。

最近のあるアンケートで、高校生のなりたい職業No1が公務員だったそうであるが、正直これらの公務員を希望した高校生が全て「国の為に何かをしたい」という高い志を持って公務員を選んでいるとは到底思えない。リスクとリターンが不釣合いな職業、つまりおいしい職業としての「公務員」のイメージが、それほど社会の実情を知っているわけでもなく、就職をまだ真剣に考えているわけでもない高校生の間ですら定着してしまっているということなのだろう。

政府がその特有のやりがいと低リスクによって魅力を高めて能力の高い人間を集めること自体は国民にとってもメリットがあることであるが、就職人気No1になるほど魅力を高めるのはやりすぎであり、このようなアンバランスは不必要なまでに能力の高い人材を公務員へ吸収してしまい、人材の適正配置の面からも税金の適正利用の面からも好ましくないはずである。


(注1)但し、年次が違うデータを無理やり混ぜたせいか、或いはデータ処理そのものに問題があるのか、本エントリーで計算したデータと公務員平均給与が紹介されているサイトの値とがあまりあっていない例がある(韓国、日本は高すぎ?)。 よいデータセットがあれば再度検証してみたい。