中国への技術流出は防げるのか?

中国の「パクリ新幹線」輸出問題などで、今更ながら技術流出の危険性が取りざたされているが、これは今の日本では簡単には阻止できない問題である。


まず業界単位で見た場合、中国の技術力を向上させることが業界の利益を伸ばすことになるケースでは、むしろ彼らは積極的に技術移転を進めるはずである。ユニクロ等の繊維産業が代表例であろう。 このケースでは基本的にはWin-Win関係が存在しており、日本全体としてもプラスになりうるが、移転された技術を拠り所にしていた下請け企業は苦しい立場に立たされることとなる。


次に業界単位で考えると技術流出は利益にならないが、企業単位で考えると利益となるケースはどうだろう? 民間企業の主な目的は株主利益の最大化であり、それが利益となるのであれば中国に進出する気概・能力のある企業は当然のように技術移転を推し進めるであろう。 このケースでも一定のWin-Win関係が存在しているが、日本全体としてはマイナスとなる場合が多い。


次に業界単位はもちろん、企業単位で考えても中国への技術流出が必ずしも長期的な利益とならないケースについてはどうだろう? 今回の鉄道技術の流出はこのケースに近いかもしれない。
この場合でもその技術が先進国においてある程度一般的なものなら、やはり流出する確率は高い。もしある企業がぬけがけして流出させれば、その企業だけが流出による被害の一部を代償として受け取れる場合、その企業にとってのトータルでの利得はマイナスでも、最悪のケース(誰かに抜け駆けされる)を避けるための選択として自ら流出させて被害の軽減を企てる可能性がある。つまりこの場合のナッシュ均衡は全企業が損を承知で技術流出させることとなるわけである。
このケースで最適解を得るための方策の一つは各企業がお互いに協定を結ぶことであるが、それは談合になってしまい、先進国では難しい。


技術が先端的で、かつごく少数の企業のみが保有している場合にはまだ技術流出を防ぐチャンスがあるが、それでも流出を完全に防ぐことは難しい。日本の場合、技術者の引き抜きによって会社が保有する重要な技術を持っていかれたとしても、なかなかそれを罰することができない。引き抜かれた人間にとってみればより高給を払ってくれる会社に移ることは個人の利得最大化の点から見れば当然であるが、このケースではごく一部の国民が利得を得ることによって、日本全体としては大きな損失が生じるわけである。 


この問題には法的な対策が必要と思われるが、少なくとも民主党政権がその対策に乗り出すことはなさそうである。 
それどころか今の民主党政権は

「温室効果ガス削減技術を中国に供与する 鳩山前首相 訪中で表明」

「レアアース代替素材 中国と共同研究へ 経産相」

等、どこに日本の国益があるのか理解できない発言を連発しており、そもそも技術流出を防ぐ気はなさそうである。


但し技術流出を防ぐことにより得られる国益は、先行者利益を最大化することによって得られる国益であり、世界全体での効用の最大化とは相反する面がある。 鳩山前首相は「地球市民」という言葉を好んで使っていたような視野の広い宇宙人であったので、その視点からみれば民主党政権の進める技術流出の促進策は世界全体の効用最大化を進める有効な手段なのかもしれない。