高橋洋一氏 ニュースの深層「白川日銀「量的緩和」はどれほど効果があるか」について (+追記)

高橋洋一先生が「ニュースの深層(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1528)」において、以下の二つのグラフを示して

  • 通貨量を増やせばインフレを起こせる
  • 人口増加はインフレ率とは関係ない

という主張を展開されている。



この二つのデータについてはリフレ派の主張の根拠としてはおなじみのものである。筆者も以前に興味をもって解析してみたことがあり、該当するエントリーをそれぞれ書いたが、もう一度まとめておきたい。


該当エントリー
マネータリーベースの伸び率とインフレ率の関係について

飯田泰之准教授「人口減少」責任論の誤謬 についての考察 (2)



「まず通貨量を増やせばインフレを起こせる」という主張であるが、もとのグラフが示しているのは同じ期間(2000-2008)の通貨量の増加とインフレ率の相関である。しかし、この相関は必ずしも通貨量を増減させれば近似式に従ってインフレ率が増減するという意味を持つわけではない。
そこで、データのあった過去10年間を二つの期間(A:98-03 & B:03-08)にわけ、二つの期間の間で通貨増加率とインフレ率がどう変化したかをプロットしてみた。 期間Aから期間Bに掛けて通貨量をより増加させた国のインフレ率が上がっているという傾向は殆ど見て取れない。 (ではこの相関が一体何を表しているかについても以前の記事では考察したので興味があれば読んで欲しい)



次に「人口増加とインフレ率の関係」であるが、同様のプロットを一人当たりの名目GDP上位20カ国のみに絞って作成したのが以下の右側の図となる(左側はその他の先進国)。 先進国に対象を絞った場合、そこそこ強い相関が見られる事がわかる。 先進国では経済は需要制約型になることから人口要因は供給制約型の発展途上国とは異なる影響を持つことを意味しているのではないかと思う。
ちなみに1990年のグラフにおける(A)グループはフィンランド、イタリア、スペイン、スェーデン、英国である。 アイスランドも含め、これらの国は全て「インフレターゲット」採用国であり、2000/2005年のグラフではインフレをマイルドなレベルまで抑えることに成功している。又、その他の先進国も全体として相関関係を保ったまま低インフレ化していることが分かる)





このようなデータ処理では諸条件を変更すれば自分の主張を支持するデータを作成することもそれほど難しくなく、「統計でウソをつく方法」という本もあるくらいだが、上記のデータ処理については一応自分の考えに基づいて条件を先に設定し、その後の処理は正直にやったつもりである。


もう一つのインフレ率と実質成長率の関係についてもいずれ自分で少し手を動かしてみたいと思うが、もし本当に高橋先生が言うとおり「相関がない」のであればデフレで高実質成長を目指したほうが良い気がするがどうなんだろうか??



(追記)
「デフレの正体」の批判リンクに取り上げていただいた事によってこのエントリーが高橋先生の目に留まったらしく、

よく集めたけど私への批判は的外れ。通貨と物価には直ぐに効果がでないで遅れるラグがあるから、長期の平均でcross section分析する。それを分析期間を切って時系列的に分析したらダメ RT @smith796000: http://ow.ly/3V3zO

http://twitter.com/YoichiTakahashi/status/36252598751203328

と言われてしまったようである。

通貨と物価の関係については確かにこのエントリーだけ見ればなぜ時系列的に分析しているか分かりづらいかも知れないが、最初にこの図を作成した時のエントリー(以下)を見ていただければ、なぜこのような区切りでプロットを作成したか分かるはず。 

マネータリーベースの伸び率とインフレ率の関係について
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20101020/1287609913

先生が指摘するところのラグを考慮して、ある年のインフレ率と、その前5年間の通貨増加率が相関を示すことを確認した上で、金融の緩和度の変更がインフレ率とどう関連しているかを示したのが上の図である。


データを都合よく解析するのは危険というのはむしろこういうのやこういうのをさすんじゃないだろうか?

ちなみに人口要因のほうについてはコメントは無かったようである。話の流れではこちらが本命だったはずだし、どう思われたのか感想が聞いてみたい気もしたのだが、