デフレは本当に日銀の金融政策が原因なのか?

前回の記事で私が「なぜリフレ政策に懐疑的なのか」について書いたが、その前提としての「なぜデフレが起こっているのか?」についての私の考えもここで一度まとめて書いておきたい。

私の考えは単純であり、以下の1枚のグラフにほぼ集約されている。


グラフは世界経済のネタ帳様より


上掲のグラフは少なくとも過去30年間の間、下記の二つの傾向が維持されてきたことを示している。
傾向1: 日本のインフレ率は殆どの期間で先進国グループで最も低い値を示している。
傾向2: 先進国グループは長期的傾向としてインフレ率を低下させ続けてきた。
よって上記二つの傾向から推察すれば、「日本がデフレに突入したのは世界経済全体の均衡点が長期にわたって移動してきた結果ではないか?」というのが、私の考えの出発点である。


つまり日本のデフレの要因について考えるのであれば
(1)先進国グループに於けるインフレ率低下傾向と、
(2)日本が何故他の先進国グループより低いインフレ率を示しているのか
の2点について説明できればよいことになる。


まず(1)については少子高齢化、人口減少、中国等発展途上国の台頭等多くの要因が考えられる(各論については過去記事参照)。この手の要因についてはリフレ派から「先進国で日本だけがデフレになっていることが説明できない」との批判があるが、先進国全体におけるインフレ率低下傾向の要因としては十分に有意であろう。(又、日本においてこれらの要因がより強く作用しているのではないかとの疑いもあるが、仮にそうでなくてもこの推論の枠組み自体はあまり変わらない)

そして(2)については先日のエントリーで書いたとおり、日本が構造的な経常黒字体質であることが一つの要因であると考えているが、その他にも潜在的成長率の差も定性的には関係するのではないかと推察している。但し、傾向2は潜在成長率が他の先進国を上回っていた1980年代も、下回っている2000年代も大きな違いはないので決定的な要因ではないだろう。


ここで指摘しておきたいのは上記の二つの傾向は短期的には循環的な景気動向(バブルや不況)の影響を受けても長期的傾向としてはほぼ変わらずに観測される点であり、金融政策が緩和的な時も引き締めているときもその傾向に大きな影響は見られない点である。つまり金融政策は短期的・循環的な景気動向を制御するのには非常に重要かつ強力であるが、長期的・構造的なインフレ率の傾向には本質的に大きな影響を及ぼせないのではないかという事である(注)。

よって前回書いたことの繰り返しとなるがインフレ率を過度に重視して金融政策を行うことは、循環的な景気動向の制御能力を失い本来制御できたはずのバブルとその後の不況を発生させるのでは無いかというのが私のリフレ政策に関する疑念である。


(注)もちろんこれは一般的な範囲内で運用されていればという話であり、「今後日本は無税国家になり、支出は全て政府紙幣の発行で賄う」みたいな話になれば当然インフレ率は青天井に上がることは間違いない。そしてこの場合循環的な景気動向の制御は完全に失われる。