なぜ人口減少が需要減にだけ効いて、供給減に効かないのか?

はてなブックマークでこのようなコメントを頂いたので少し繰り返しになるがこの点について私が考えていることを簡単なモデルと図で示してみたい。


前提としてある基準年の人口を100、その年から25年間の人口増加率を図1のように仮定する。すると25年間の人口推移は図2のようになる。 人口は17年間増加し続けた後、7年間減少する。



この時の住宅需要を考える。住宅に限らず耐久財には大雑把に言って買い替え需要と追加購入需要が存在する。 住宅で言えば建て替え需要と新規追加建設需要になる。 ここでは単純化の為、建て替え需要は前年度末の総住宅数の5%、新規追加需要は人口増加分に比例するとする。
上記の前提の下に計算すると住宅の総需要は図3の通りとなる。人口増加率は減少に転じるものの人口自体は依然増加を続けている13年の時点で既に総需要が減少に転じているのが分かる。

さらに人口当たりの住宅の総需要を基準年を1.0として計算したものを図4で示す。
傾向として(1)人口増加率の増加期間は増加、(2)人口増加率が一定の期間は一定、(3)人口増加率が減少を始めてから人口が実際に減少し始めるまでの期間は減少、そして(4)実際に人口が減少し始めた後は微増しているのがわかる。


総需要は生産性が同じとすればその産業が抱えられる労働者数と比例しているはずなので(3)の期間では人口が増加しているにもかかわらず産業に労働者の過剰感が発生し、新規雇用が抑制されることが予測される。そしてもしこの期間に生産性が向上すればその過剰感はより強調されることとなる。
又(4)で見られる増加は供給力が不足することによるものと考えることも出来るが影響は弱く、しかもモデルに反映されていない少子高齢化や生産性の向上等のファクターによって打ち消されてしまう可能性もある。(注1)


以上はごく単純化されたモデルであり、実際には核家族化による人口当たりの住宅需要の変化等もあると思うが、大まかに言えばこのモデルで示したような需要への影響は、住宅だけでなくある程度一般にいきわたった耐久財においても同様に見られるはずである(例えば携帯電話とか(注2))。

人口減少(正確には人口増加率の減少)がデフレに与える影響については以前紹介した飯田先生の記事も含め、「小手先の対策ではどうしようもないものに責任を押し付けることによって本来すべきことの議論をうやむやにしてしまう」との批判もあるが、少なくとも私としては単純にその想定されるメカニズムと現実とを比べ合わせた時に整合性を感じるという観点から「人口減少はデフレの一要因である」という説を信じており、そこにあまり価値観や人生観を持ち込んでいるつもりは無いのである。


(注1) 総人口の増減と労働人口の増減は必ずしも一致しないので実際には総人口の減少率以上に労働人口が減少すれば労働力の不足感が強調される可能性はある。但しその場合には福祉等別の負担が増すわけであるが、

(注2) 逆に携帯電話が一般に行き渡っていないような国では所得の増加、もしくはコストの低廉化によって新規購入需要が強く刺激されるため、人口の増減のファクターは覆い隠されることとなる。 また耐久財が十分に行き渡っている先進国においてもiPhoneのような斬新な新製品に対しては人口動態と関係なく新規購入需要が生じ、全体の需要を底上げする。 但しこのようなイノベーションは意図的にかつコンスタントに生み出すことが難しい。