デフレは中国のせい? - 「デフレと円高の何が「悪」か」感想(2)

上念氏はデフレが安い輸入品の影響によるものという説(いわゆる輸入デフレ説)について1−5章で

中国デフレ原因説(いわゆる輸入デフレ説)の大間違い

あまりに馬鹿馬鹿しいので、この話題は一言で終わりにしたいと思います。 もし安い中国製品が日本を10年以上デフレに陥れていると仮定するなら、日本よりも中国からの輸入依存度の高い国は、日本以上のデフレに見舞われていないと筋が通りません。 しかし全世界で10年以上デフレが続いている国は日本だけです。
よってこの説は誤り。 以上です。

と片付けてしまっているが、そんな簡単な話なのだろうか? まるでタバコを吸う人がみんな肺癌になるわけではないからタバコは肺癌の原因ではないといっているような印象をうける。


まず、「中国」だけを取り上げているがここは「日本より物価・人件費が安い国」として読み替えて論じる必要があると思う。もちろん中国はその代表選手にして主力選手だが日本と比べれば殆どの国の物価・人件費は安いはずである。 つまり


物価・人件費が高い国と安い国が「変動相場制」、「資本移動の自由」という状況下で併存したときに物価・人権費が安い国の存在は物価・人権費が高い国にとってデフレ要因になるかどうか


という問題になる。

単純に考えて物価・人件費の安い国の存在は高い国での「実質的」な物価の下落圧力となることはあまり疑問の余地はないと思われる。 人件費が安い国で作ったものが人件費の高い国で作ったものを代替可能であれば、その分だけ「実質的」な物価は下がるのは間違いない。

で、この問題のややこしいところは為替と各国のインフレ率がバラバラに存在し得るところで、物価が高い国のインフレ率が高ければ実質的な物価は下落しつつインフレ率はプラスをキープする(名目物価は上昇する)ということも可能であり、実際にそういう国も存在する。 このことを持って為替・物価は結局金融政策の問題だと言うことはある意味正しいかもしれない。

しかしながら結局のところ例えインフレによって名目物価が上昇しても実質的な物価が下落すれば国内企業の収益性に悪影響を与えることは同じである。よって製造業を中心に見れば、インフレ率が高い時には人件費が安い国の存在はスタグフレーション圧力になり、インフレ率が低い時にはデフレ圧力になるというだけであり、人件費の安い国と同じものを製造しつづけている限り、不況への圧力になるのは避けられない。 

その圧力を避けるための手段は大雑把に言って製造業では日本の人件費を他国並に下げるか、産業構造を変えてより高付加価値のものを作るかの二択。ちなみに前者はこれまで築いた地位を捨てて相対的に貧しくなるということであり国として目的とすべきものではないし、まして金融政策の目的には成り得無い(はず)。
又、製造業からすこし離れてみてみれば、高付加価値のものを作れない製造業については他国の労働者と直接競合しない業種(サービス業等)に労働力を配置しなおす事も圧力を避ける方策の一つと考えられる(よって個人的にはこれらの産業までも直接他国の労働者との競争に晒す移民政策は反対なのだが、それは又別の話。)

但し、少し付け加えると中国を始めとした発展途上国の存在自体、全体として日本経済のマイナスとなるばかりではないと思う。 それらの国々の一人当たりのGDPが順調に伸びていくのであればそこに巨大な需要が創造されていくことになり、内需が容易に伸ばせない状況にある日本(&先進国)としては宝の山のようなものである。 

もちろん外需頼みの経済はリスクも高い為、単純に輸出を増やせばよいと言うものではないが、少子高齢化+労働人口減少の状況下で持続可能な経済構造に転換していく過程として日本のブランド力を維持しつつこの外需をうまくつかんでいくことは日本の将来には必要であり、そこをうまく切り抜けられればGDP総額は減少しても一人当たりのGDPを維持、増加させることが出来る社会を実現することもあながち無理な話ではないと期待している(のだが一方で今の民主党政権では無理かなと悲観もしている、、、)

(追記) ただし、中国について問題なのは元の為替を操作していることであり、元を実力より安く留め置くことはやはりデフレを輸出している側面があると思う。 そういう意味では日中間で見たとき円高と元安は同じものであり、上念氏も円高は悪いとしているのだから元安も悪いとなるはずなのだが、、