「デフレだからモノが売れない」のか?? - 「デフレと円高の何が「悪」か」感想(1)

先日久しぶりに日本に帰国した際に「デフレと円高の何が「悪」か 上念司」という本を書店で見つけたので、試しに買ってみた。 この本については色々と論じてみたい箇所が有るのだが、まずは最初に目についた「デフレだからモノが売れない」という箇所について論じてみたい。

上念氏は書の中でデフレで物が売れないのは将来的に価格が下落するのを見越して消費者が買い控えるからだとして

なぜ売れないのでしょう? デフレだからです。 「どうせ明日はもっと安くなるんだろう?」という値下がり期待による買い控えが世の中を覆いつくしている状態だからです。「今日の特売で買わないと明日は値段が下がる」という物価上昇期待が存在しなければいくら値下げしてもモノはぜんぜん売れません。

と記している。 そしてその次の章に

1−2 「心が豊かになって買うモノがなくなった」という珍説


確かに、買い物上手の私は何を買うにしても慎重です。携帯電話も2年前に購入したauのW53CAを未だに使い続けています。 後継機種も発売されていますが、カメラの画素数が上がった以外のメリットはあまりなかったので購入を見合わせています。 また3年前に買ったママチャリも未だ買い換えずに乗っていますし、PCもウィンドウズVISTAというOSを使いたくないので未だにレッツノートR6のXPプレインストール版を使っています。 そういう意味では買いたいものはそれほどありません。 おそらく皆さんもこういった普段の経験から「買うものが無い」という説を主張しているのだと思います。<中略>
しかし本当に日本人はみんな「買うものが無い」といった仙人モードになってしまったのでしょうか?<中略>
新型と旧型の製品が同じ値段だったら普通は新型が選ばれるはずです。しかし現実には新型は高くて手が出ない、つまり「買うものがない」のではなく、「買いたいけど買えない」ということが多いのです。

と論理を展開している。


ん??なんかおかしくない???


文章の展開が追いづらいのでひょっとしたら私が上記の展開を読み違えている可能性もあるのだが、いずれにしても上念氏のあげた3つの例はデフレ原因論には当てはまらないようなものばかりな気がする。 


もしインフレなら上念氏は本当に携帯を買い換え、3年しか乗っていないママチャリを買い換え、わざわざ使いづらいVistaにXPから乗り換えたのだろうか???


私は以前に「人口減少とデフレについてで書いたように物が売れないのは日本では資本(物)がある程度行き渡っている上に、人口増加率の減少をベースとした需要の縮小があり、それを補うだけの需要の創造(技術の進歩・革新等)が無いのが原因であり、さらにその「結果」としてのデフレ不況が消費者心理を冷えさせて不要なものを買わなくしていることにあると考えている。

その観点から見れば携帯、Windows Vistaが上念氏に売れなかったのは買い換えたいと思わせる技術の進歩が足りなかったからであり、ママチャリが売れなかったのはある程度技術的に完成された耐久財は一度売れれば壊れるまでは同じ人には売れない物であり、より多く売るには購入する人の数が増えるしかないからではないかと思う。

よって売れなかったのは今後価格が下がる見込みが存在する為(デフレのせい)ではなく、むしろこういう物が十分に売れないから需要が不足し、そのことがデフレ圧力の一つになっていると考えたほうが自然ではないかと考えるのだがどうだろうか?

(もちろん上念氏が言うように今後価格が下がる見込みが存在するために売れないものも無いわけではなく、土地等の不動産はその代表だろう。 ただこれは生産・消費されるものでもないし、金利の将来見通しや将来的な人口減も絡む話でもあり、そもそもGDPデフレータの対象でもないので別の話と考えてもよいと思う。)