人口減少とデフレについて−リフレ派はなぜ人口要因を軽視するのか?(2)

で、本題の「リフレ派はなぜ人口要因を軽視するのか」だが、ざっとリフレ派の方のブログや掲示板への書き込みを拝見したところ目立った意見は以下の5種類に分けられるようだ。 取りあえずそれぞれについて考えてみた。


1. デフレが人口減少の要因だろ

2. 人口減少は日本における現在のデフレの要因ではない
(a) 人口が減れば供給も需要も減るから需給ギャップに影響しない
(b) 人口が減れば供給力が落ちるからむしろインフレ要因だ
(c) 人口が減ればかえって労働力の価値が高まるはず
(d) 人口が減少し始めたのは最近で長期にわたるデフレを説明できない
(e) 人口が減少しているといってもまだわずかであり市場が大きく縮小しているわけではない

3. 人口減少してる国でデフレなのは日本だけなのでそれが主要因じゃない

4. 実際にデフレが始まった頃に急に人口動態が変わったわけではないのでそれが主要因じゃない

5. デフレは通貨供給の問題だから人口減少とかは関係ない。日銀の問題。


1.について
掲示板でたまに見かける。 まあ半分冗談だろうが現在進んでいる人口減少の原因となる少子化が始まったのはずっと昔だから当然そんなことはない。


2.について

あの、最近デフレの原因は人口問題だとかいうトンデモが流行っているようなんですが、人口減少は通常供給力の減少につながるインフレ要因では?大体、韓国は日本より激しく少子化ですが、デフレじゃなくてインフレですけど。 #デフレ危機_
http://twitter.com/smith796000/status/20881186689

@WATERMAN1996: BSフジ、水野和夫。生産年齢人口が減少すれば、返って労働力の価値が高まるんだけどなあ。ちなみに今後数年でアジア各国で生産世代人口が減り始めるらしい。その時にどの国もデフレになるのか?ならなかったら笑いものにしてやる。
http://d.hatena.ne.jp/WATERMAN/20100811/1281539836

(因みに、人口減少となったのは05年か07年くらいからだったか、つい数年前くらいであり、それ以前のデフレについて説明できないと思うが。)
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/b33a890fa4aa96d722a0555730869413

前エントリーで住宅について考えてみたように少なくとも耐久財については人口増加率が減少すれば人口自体が減少しない場合でも需要が供給を下回りうるし、その場合人(労働力)も余る。単に人口に比例して需要が増減するわけではない。そして耐久財とそれに類する需要は決して小さくはないはずである。
また人口の減少以上の割合で高齢化が進んでおり、高齢化によって補われている人口は買い替え需要にあまり寄与しないと思われるので実際にはダブルで需要が減少していると思われる。(60歳子供無しなら家が古くなってもなかなか建て替えようとは思わないだろうから)


3.について

高齢化の水準ではなくその後の高齢化の速さが重要だったとしても、日本の高齢化の速さはイタリアより若干速く、スペインと同程度、韓国よりは緩やかとなっています。韓国、イタリアやスペインはこれから先、日本ほどでないとしても人口は減少していくわけですが、どの国においてもデフレの兆候は全く見られません
http://katsujiya.posterous.com/-delta-function-0

ここで日本同様に高齢化が進んでいるのにデフレが起こっていない国としてあげられるているのはイタリア、スペイン、韓国。
ただイタリア、スペインはユーロ圏に入っており事情はかなり異なるのではないか? またユーロ圏には相対的に貧しい東ヨーロッパの国が含まれており、彼らが経済成長すればそれはユーロ圏としての需要増につながり特定地域の需要減はカバーできる可能性がある(ような気がする)。

韓国は以前エントリーにも書いたが特殊事情(通貨不安&強い加工輸出産業)があり、物価上昇が押えきれないというのが実態ではないだろうか? ただ、韓国はリーマンショック後の世界的な不況で先進国が軒並み消費者物価を下落させている中で唯一2−3%の物価上昇率の維持?に成功しておりそういった意味ではリフレ政策のお手本となる国かもしれない。
(参考:http://blogs.yahoo.co.jp/x_men_go_go/22217862.html


4.について

@WATERMAN1996: BSフジ、藻谷浩介。話のそれぞれの部分は間違いでは無いのだけど、人口動態がデフレの原因ならば、1997年に何か人口動態に特殊なことが起きたという話は聞かない。
http://d.hatena.ne.jp/WATERMAN/20100811/1281539836

1997年の金融危機や2000年のITバブル崩壊時にコアCPIが一段下がったのは需要ショックが引き金になっていたことは事実であろうと思うが、金融バブルやITバブル等の需要の強化要因が除去された結果、人口減退という構造的な要因が表にでてきて、金融緩和による景気刺激を行ってもその需給ギャップを埋めることが出来ていないのがこの10年間ではないだろうか?
もちろん、そうでない可能性も十分にあるが少なくともデフレが始まった年に人口動態に特殊なことが起きていないというだけでは人口動態がデフレの主因ではないという証拠としては弱いと思われる。


5.について
結局のところこれ(「日銀が原因」)が言いたいんだろうなぁ。 デフレは日銀が主犯(&単独犯?)だから日銀が解決しろと。
むしろ日銀叩きが目的化してしまい、リフレを行うとどのような影響が生じるのか?その場合のリスクは何か?といった議論よりなぜ日銀がそのような犯罪的行為を続けているのかといった話で盛り上がっているような気がする。


「デフレの主因は人口減少だが、この問題は簡単に解決できることではない。よってその痛みを和らげるために政府・日銀が一体となった積極的なサポートが必要である。」といった意見のほうがむしろ多くの人にアピールするのではないだろうか? その上で、リフレ政策によってどのような効果が短期・長期で期待できるか?どのようなリスクがあるか?またそのリスクにはいかにして対応できるか?等の議論をしてもらえれば今よりも話に入っていきやすいはずである。


ところが実際には日銀陰謀論やリフレ派の内ゲバみたいなものが最近目につきがちな気がする。 日本人の多くは陰謀論に対してはあまり良い印象を抱かないと思うし、良いか悪いかはともかく政治家がやっとデフレ克服に向けて動き出している中でリフレ政策が一般人にも注目を集め始めており、本当にリフレ政策を推進したいのであれば戦略を変える時期に来ているのではないかという気がする。


尚、誤解の無いように書いておくがこのエントリの趣旨はリストアップしたような単純な理論や事実だけでは「「人口減少がデフレの主要因ではない」と言い切るには説得力が弱い」のではないかということであって、「人口要因がデフレの主要因である」ということを主張しているわけではない。