人口減少とデフレについて−リフレ派はなぜ人口要因を軽視するのか?(1)

日本でデフレの要因として取り上げられるもののひとつに少子化による人口停滞・減少があるが、リフレ派の人には今一つ不評のようである。

リフレ派から見た「人口減少とデフレが関係ない理由」は色々な視点が含まれており考えさせられるものがあるのだが、それについて書く前にまず人口増加率の低下がどのように需要不足・デフレに影響するのか考えてみた。 (以下では人口と労働人口をごっちゃにして書いてしまっている部分があるが、基本的な方向性は変わらないはず。)

例えば住宅を考えてみる。

人口が毎年2パーセント上昇している社会でどれだけの住宅需要があるだろうか?

日本の住宅の耐用年数は大体26年くらいみたいなので仮に1年間に建て替えられる戸数をざっと全体の4%程度と仮定する。それに対して人口増に比例して新たに住宅が必要となるとすると新築住宅がさらに全対の2%必要となり、併せて既存の住宅戸数の6%に当る需要が存在することになる。

またそれだけの住宅を新たに建てるためには各種インフラや新興住宅地のような大規模投資(=大型需要)も必要になるだろうし新たに増えた家庭では家電製品も一通り必要となる。

この場合、次の年は102%がスタートになるため、住宅需要の総量も同じ比率で増加する。よって人口増加率が維持できるのであれば住宅需要も右肩上がりで成長すると期待でき、建設会社側も将来の需要増を見込んで雇用を増やしたり投資したりできるようになる。

ここで次の年に人口増加率が2%から1.5%になればどうなるか? 建設される住宅数は102%の(4+1.5)%となり、5.6%で前年を下回ってしまう。 つまりこの場合人口自体は増加していても増加率が鈍くなるだけで需要は前年度を下回ることになる。
この時建設会社は少なくとも前年と同じだけの住宅を建てる能力(供給力)があるので、その供給力が活用されない状態、すなわり需給ギャップが生まれることになる。大雑把に言えば供給力がフルに活用された状態でのGDPが潜在GDPだが住む人間もいないのに潜在能力を発揮されても誰も得しないのは明らかである。

この時、人口は1.5%増えているのに需要は減っているわけなので単純に考えるとこの人たちは仕事からあぶれてしまう。

さらに人口が停滞、或いは減少し始めたらどうなるか。住宅需要はさらに大幅に減少するし、インフラや新興住宅地を作る需要に至っては0になってしまう。又、衣類にしろ家電にしろ人が使うものは多かれ少なかれ同様の影響を受けるだろう。

人口増加率が減少を始め、その反転が見込めなくなった時点で建設会社は将来的にも使い道が無い供給力(含労働者)を抱えている事になる。競争も激化するので会社ごと退場したくなければ余分な人員を減らさざる得ない。よってリフレ派の一部の方が指摘されている「人口が減ったら労働力が稀少化して価値(報酬)が上がるはず」という風にはなかなかいかないように思われる。

では人口停滞・減少時代に需要、特に内需を維持するにはどうすれば良いかというと大まかに言えば以下の4つが考えられる

1.一人により多く売る
2.より高いものを売る
3.これまで買えなかった人に売る
4.それまでに売られていなかったものを売る

1の戦略はテレビや自動車等ですでに広くとられており1家に1台から1人1台へというやつである。加えて核家族化による人口当たりの世帯数の増加も同じ効果を発揮してきたと思われる。また、たくさん売るためには値段を安くするのが効果的であり価格破壊とセットでやる場合も多いがその場合は販売数ほど総売上高は伸びない。

2については国内外での競争が激しいなかで値段に反映できるほどの差別化を行なうのは現実にはなかなか難しい。成功例はスタバとかかな? 又、MSや一時期のドコモのように独占的な立場を築いて単価を上げることもこの分類に入る。

3は自動車の販促で行われている「一括で買えないならローンでどうですか? それでも無理なら下取り金額も先に引いときますよ。」って感じのキャンペーンが良い例かな。 サブプライムローンもこの仲間かもしれない。

4はある意味正統派。 それまで存在しなかった需要・産業を産み出すことによって雇用も産み出されるし生活の質も向上する。古くは三種の神器、最近ではパソコンや携帯電話だろうか。

で、日本について言えば1から3については既に散々やられてきたし、日本がアメリカのような過消費社会になる可能性も低いと思われるのでこれらの手法で大きく需要を上積みするのは難しいように感じる。又ここで変に頑張りすぎると市場の寡占化やサブプライムローンのような歪みが生じかねない。

しかしながら日本が4の戦略を取るのもなかなか難しい。

もし日本が発展途上国であれば自国には存在しないが先進国では存在する需要を持ち込めばよい。 中国で自動車や携帯電話が爆発的に売れているような状況を創ればいいわけである。
ところが既に今の日本には他国にあるものは大概なんでもある。つまり新たな大型需要を創り出すには自らが発明(イノベーション)しないといけない状況なのである。(もしくは他力本願で誰かが発明してくれるのを待つという手もあるが、)

まあこれは見方を変えれば日本は現時点で世界に存在する需要についてはほぼ全てにアクセス可能な状態になっているという事であり、一概に悲観することではないようにも思われる。
いずれにせよ日本が今出来ることは人口減少社会に併せた供給能力になるまで既存の産業をスリム化し、あぶれた人員をワークシェアリング等で吸収するか労働生産性が悪くても社会の効用が高まる産業(介護?)にまわして人口減少化でも維持可能な産業形態に移行するとともにイノベーションが起こる土壌を少しでも整備することであって、膨大な借金を作りながら本来存在しない需要にこたえる供給力を無理やり維持・稼動させることではないのではないだろうか?

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上記1−4の他に自国内で完結しない類の方法としては
5. もっと外国に売る
6. 移民で人口を増やす
の二つも考えられるが、これらについては個人的には否定的。 
そう考える理由についてはいずれ書く予定。