リフレ政策の途中経過について簡単に考察してみる

ネタ収集の中心だったGoogle Readerのサービス停止を契機にすっかりご無沙汰になってしまっていたが、黒田日銀のリフレ的な政策の開始から約1年が過ぎ、現状をどう思っているのか?的なコメントをいくつかいただいたので、久しぶりに少し書いてみる。


こういったコメントの背景には「リフレが成功している事を反リフレ派はどう思っているんだ?」という疑問があるのだろうと思うが、ざっくり言ってしまえば日本がリフレ政策を始める前、更に言えば米英がリフレ政策を始めた頃と比べてもリフレ政策に対する懸念は全く変わってないし、付け加える事も殆ど無い。


まずコメントにあった過去1年の日本について言えば良くも悪くも想定の範囲内と言える。 そもそも日本が開始する何年も前から米英が先行してリフレ政策を実施していたわけであり、開始当初にどのような影響があるかについてはある程度分かっていたし、実際に起こった事もそこから乖離していた訳ではない。

又、より本質的な点について述べれば筆者はリフレ政策が資産バブル等を通じて金融危機を再び招きかねないとの懸念等からリフレ政策に懐疑的であったわけだが、最近の例を見ると金融危機へと至る過程は景気が徐々に悪くなっていくような過程ではなくむしろ表面上は景気が良くなっていく過程である。世界金融危機が起こるまでの米国や英国もそうだったし、更に言えばギリシアだってそうだった。 その要因が資産バブルなのか財政危機なのかは違っても、これらの国では成長率等の表面的な数字だけを見れば過去例が無いほどの好環境が過去例が無いほど長く続いた後に、過去例が無いほどの危機が襲ったわけである。

もちろん危機はある日突然どこからともなく襲ってきたわけではなく経済における歪みが累積的に蓄積された結果生じたものであり、その累積過程において警告を行なっていた識者もいなかったわけではないが、結局の所こういった警告が事前に当局者によって真剣に受け止められることはなかった。 米国の住宅バブルにしても当初は好景気の象徴とみなされ、懸念が顕在化した後もグリーンスパンFRB議長はぎりぎりまで「これはバブルではないフロスだ」みたいな事を言っていた。

現時点の米英で既に金融危機に繋がるような資産バブルが起こっているかは評価が難しいところだが、それが疑われる状況である事は間違いないだろう。 筆者の住む英国では既にバブル懸念が主要各誌で繰り返し報道されるような状態であり、ロンドンは93%の確率で既にバブル域にあるとの研究結果がBBCで報道されていたりもした(参照)。 米国もS&Pケース・シラー住宅価格指数を見ると、主要都市の指数が急上昇していることが分かる。その上昇率は全米平均でも年率11%を超えており、高い都市では25%(サンフランシスコ)に迫っている。 こういった事象をみると、リフレ政策への懸念はむしろ過去1年間でより高まったといっても良いかもしれない。


金融政策の成否という点について言えば、景気が改善していることだけを見て「リフレ政策が成功している!」と言えるのであれば、金融危機が起こる直前までのグリーンスパンの政策も「成功していた」という事になるのだろうが、筆者はグリーンスパン議長(やバーナンキ理事(当時))が今回の金融危機の主犯の一人だと考えており、つまり金融危機が起こる直前までの好景気を演出した彼らの政策は「失敗していた」のだと考えている。 そして同じ文脈から考えると、現状のリフレ政策が失敗していないと確信を持てる根拠はどこにも無く、「成功している」のか「失敗している」のかが分かるには時間が必要となるというのが現状に対する筆者の評価という事になるわけである。


*誤解を招きそうな箇所に一部追記実施