リフレをやってもハイパーインフレは来ないだろうし、経済が破綻することもないかもしれないが、経済が韓国のようになる可能性は高いのではないか?

安部総裁のリフレ発言?を機に、良くも悪くも活気付いてきたリフレ・反リフレ界隈であるが、その中でも池田教授や小幡氏が活き活きと?リフレ政策批判を展開しているのが目立つ。

「インフレは起こらないがハイパーインフレは起こる」池田 信夫
http://agora-web.jp/archives/1501677.html

「ハイパーインフレは起きないが、リフレは経済を破綻させる」小幡 績
http://agora-web.jp/archives/1501889.html


筆者も従来よりいわゆる”リフレ”的な政策には反対の立場であり、また池田教授や小幡氏が指摘するリフレ政策の問題点については原理的には納得できるものだと思うが、一方でハイパーインフレや経済破綻のような事がすぐに起こるとは思っていない。そして代わりに起こるのはいわば経済の”韓国化”だろうと考えている。


もちろんこの経済の”韓国化”というのは筆者が勝手につけた名前である。


本ブログでは韓国が日本のリフレ派が推奨しているような政策の多くを採用してきたことについて数年前より何度か取り上げてきた。 最初はネタのつもりで取り上げたのだが、実際にリフレ派の識者は韓国の金融政策を肯定的に取り上げることが多く、韓国がリフレ派的に「正しい」金融政策を取っているというのはそれほどおかしな見方でもないらしい。

「リフレ政策は「韓国」を目指す?」
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20100816/1281992534

「リフレ先進国」韓国の現在
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110727/1311807004


そして、少なくとも韓国経済はハイパーインフレになったり経済破綻したりはしていない(今の所は)。

韓国は通貨の信任という面では日本よりも脆弱であることは間違いなく、国内金融資本も薄い。その国がリフレ的な政策をとりつづけていても破綻していないことを考えると、(その他の要考慮事項があるとしても)同じ政策を日本が取ったからといってすぐに破綻したりするというのは心配のしすぎであろう。


但し、言うまでもなく破綻しなければOKという話ではない。問題はリフレ的政策が国内経済および国民生活に何をもたらすかである。 そして筆者の理解では日本が同様の政策を取った場合にもたらされる可能性の高い、そして現在の韓国経済で確認できる、現象は以下のようなものとなる。

  • 継続的な高インフレ(物価高)
  • 一部輸出企業への利益の集中
  • 資産バブル(投機の過熱)
  • 格差の拡大(特に資産格差の拡大)
  • 国内金融資本の脆弱化
  • 老人貧困率の悪化


まず利点から言えば、輸出産業にとってはこういったリフレ的な政策は一定の範囲内であれば追い風になりうる。リフレ的政策で無理やり誘導された通貨安は国内消費者から輸出企業への資産移転のようなもので、企業は長期にわたって対外的な競争力を維持しつつ輸出を伸ばし続けることが可能となる。それは結果として輸出の拡大を通じ国全体としての経済成長率を底上げすることもありうるだろう。しかし、その場合でも一部の人々が唱えるトリクルダウンによる経済全体への波及効果がどれほど有効に機能するかは疑問と言わざる得ない。


又、この内後半3つ(或いは4つ)は現象としては一連のものともいえる。

当局がリフレ的な政策を通じてインフレ・通貨安を演出しつづければ(そうでない場合よりも高い率で)貨幣の価値が毀損され続ける状態が続くことになり、人々が労働によって得た賃金・貯蓄の価値は安全資産で運用するだけでは(相対的に)目減りし続けることになる。
これを回避するためには、よりリスクが高い投資(投機)へと向かう必要がある。継続的に貨幣価値が一定以上の割合で毀損されるような状況下でその影響を受けづらい資産に資金が向かうのは自然なことではあるが、その結果、株や不動産などがそのターゲットとなり、更に低い金利の後押しも受けバブル的な価格上昇が発生する。

しかしバブルはやがて収束・崩壊する。老後の為の貯蓄を安全資産で運用していた人々にとってはその資産が目減りしつづけることになり、そして安全資産で運用すべきだった老後の為の貯蓄を投機でとばした人々にはもっと酷い状況が待っていることになるわけである。


上記のような現象は別に韓国だけで見られるわけでは無い。リーマンショック後、リフレ的政策を実施してきた英国や米国でも既に同様の現象の一部が見てとれる。

英国では年金生活者へのしわ寄せが深刻な問題となっているし、米国の場合はITバブル崩壊後からの金融政策(による景気対策)を一つながりのものと考えれば、バブルを起こし格差を拡大し多くの生活保護受給者を生み出したという点で非常に近しい状態にあると言ってもよいかもしれない。


世の中には現在の韓国経済の方がデフレ下の日本経済より遥かにマシだという人もたくさんいるのかもしれないが、リフレによってもたらされうるこのような状況は、例え輸出産業が牽引して経済成長率が幾ばくか底上げされたとしても殆どの国民にとっては決してよいものでは無いというのが筆者の考えであり、リフレ的な政策に反対する理由であるが、そのような状況にも幾つかの(決定的かもしれない)メリットがあることも否定できない。


一部産業に於ける賃金の下方硬直性を考えると、インフレ率が高いほうが(実現賃金上昇率<実現インフレ率)となりやすく実質賃金の調整(抑制)がより速やかに行われるし、通過安による貨幣価値(購買力)の毀損も実質賃金の調整を後押しする。よって企業が直面している問題が実質人件費の高止まりであるのであれば、企業はより容易にそれを解消することができるようになる。又、累積債務の解消にも効果があるだろう。予測を上回るインフレは累積債務(国債残高)の実質的な負担の軽減になり、膨大な国債残高の解消の一助となりうる。 

但し、前者については業績に問題のない企業も実質賃金の抑制が容易になればこれを有効活用して株主利益の増大、労働分配率の抑制を指向する可能性は高い。又、国債問題の解消は直接的、或いは(銀行・郵貯への定期預金等で)間接的に安全資産で貯蓄を運用している人々の資本の実質的な価値を毀損することになる。どちらも国民全体の厚生を無条件に改善するものとまでは言えないだろう。


いずれにしろどのような政策も決してフリーランチをもたらしてくれるわけではないし、世界経済が混乱しているなか一人勝ちみたいな状況を作れるわけでもない。リフレがポピュリズム的な装いを強める安部自民の看板みたいになってしまっているが、やっと民主党が2大政党制下におけるまともな野党になれそうな感じになったというのに、自民党の方がアレな感じになってしまっているのは残念といわざる得ない。


[追記] ちなみに安部総裁のリフレ論?は昔ながらの財政出動とセットになって建設国債の日銀買取(直接か間接かはともかく)みたいな話になっているが、これがそのまま実施されれば消費者から輸出企業に加え、納税者から土建企業という流れが付け加えられ多くの国民にとっては二重苦になりかねない。これには潜在的納税者である輸出企業からも反対の声が上がっているが、一方で彼らは為替介入にはいつでも大賛成な訳で、それはそれで都合よすぎだろうとい気がしないわけでもない。