日韓通貨スワップ拡充を満期で終了すべき理由について

日韓通貨スワップはどうやら協定の拡充分については延長がされない見通しであるが、経緯はともかくスワップ拡充の満期での終了自体は日韓経済にとって良い話ではないかと筆者は考えている。


その理由として、筆者はそもそもこれだけの規模の通貨スワップを平常時から長期に続けることは却って経済に大きなリスクをもたらすと考えており、その意味では「日韓通貨スワップ拡充の延長」に対する反対というより「(巨額の)通貨スワップの常設化」に対する反対ということになる。


過去、日韓通貨スワップの拡充は韓国において流動性不安が生じたときに行われてきており、先進国の仲間入りをした韓国に対してのみなぜ2国間でのこれだけの(実質的な)支援が必要か?という疑問を別にすれば、スワップの拡充自体は効果的であったと考えられる。 

しかしこれは危機に際して、それまでのスワップ規模を拡充したから効果的であったともいえる。


例えばスワップ規模が当初から700億ドル(相当)であったらどうなっていただろうか? もちろん規模が大きいほど外的なショックに対する耐性は上がる。 しかしスワップ規模が700億ドルであっても尚危機に陥るような状況になれば、その危機はスワップ規模をさらに大きく積みますことでしか解決されない懸念がある。

規模なんていくらでも積み増せるし、そうすればいいという意見もあるかもしれないが、仮に(政治、経済上の理由によって)それ以上積み増せない状態となればスワップ700億ドルを使い切った上で破綻することになり、その700億ドルが返ってくるかどうかも保証の限りではなくなる。 


これは別の観点から言えば、通貨スワップが常設されることにより、市場のチェックが事前に十分機能しなくなるという問題であるともいえる。 もし通貨スワップがない状態で、韓国が財政・金融政策に問題があり、市場からの信任が揺らぐような事態となれば、それは金利の上昇等の兆候となって現れ、韓国当局もたとえ目先で痛みが生じたとしても改善せざる得なくなる。 これに対して通貨スワップが常設された状態というのは韓国の政策に問題があったとしても市場からみれば「とりあえず通貨スワップがあるからそれを使い尽くすまでは大丈夫か」となる状態であり、健全な状態とは言えない。


よって通貨スワップの拡充はあくまで(特に外生的な)危機が起こった時に緊急避難的に行うべきであり、それを行う事によっていわゆる投機筋による攻撃を含む自己実現的な破綻を防ぐために行うべきで、常時から通貨の信認をそれに頼ることは筋違いと言える。


もちろん韓国政府が市場からの警告がなくても自律的に通貨の信認を維持できるように政策を改善でき、内的には「通貨スワップの常設化」無しでも問題のない状態に保つことができるという前提で、更に「通貨スワップの常設化」があれば外的ショックに対する耐性もアップし、通貨に対する信認も上昇して韓国経済にとってプラスとなるという状況も考えられなくはないが、そもそも他国の政府をそこまで信頼して自国の資産をリスクにさらすメリットがあるとも思えない。 


日本は経済大国として特にアジア諸国が外生的な危機に陥った時には世界経済の安定化の為にも積極的に金融支援を行うべきであるし、その際にはIMF等を通さない2国間での支援も行うべきだと筆者は考えている。 しかしそれと「通貨スワップの常設化」は似て非なるものであり、むしろ長期安定的な経済発展という観点からは市場のチェック機能を歪めるこのような政策は推進すべきものではないだろう。