税収弾性値について(補足)

もう一点過去の財政関連のエントリーについて補足。

過去何度か税収弾性値をベースにした考察を行ったが、その中で、「短期の税収弾性値」と「長期の税収弾性値」は違うという事について記したが、この「短期」と「長期」の意味について若干説明を加えておきたい。


「短期」の税収弾性値については端的には年度単位で見た場合の税収の伸び率と経済成長率の関係であるが、これは主にGDPギャップの増減に起因する税収の伸び率と経済成長率の関係を見ているものと考えられる。

つまり「短期の税収弾性値」が高いか低いかというのは、税制に於いて景気に左右されやすい所得税や法人税の割合が高いということを意味しており、特に喜ぶような話でもない。 つまり税収はGDPギャップが埋まる所までは比較的高い伸び率で増えるが、それはあくまで循環的なものであるということになる。


一方で「長期の税収弾性値」については潜在成長経路上の税収の伸び率と経済成長率の関係であり、これは「潜在成長経路上」にある限りに於いては累積的に考えることができる。

この「長期の税収弾性値」が1を超えていれば税収のGDPに占める割合はどんどん増えていくが、潜在成長率が達成されているのであれば、実質購買力は上昇し続けており、担税力も上昇していると考えられることから、税収のGDPに占める割合が上昇し続けても破綻することは無い。 もちろん一定のレベルで税収のGDPに占める割合の増加を減税等で押し留めれば、経済成長に伴う税後の実質購買力の上昇は加速するが、財政再建について考える場合には、少なくとも財政再建がなされるまではこの「長期の税収弾性値」が続くと考えてもよいだろう。


ここで重要なのは、この「長期の税収弾性値」は「潜在成長経路上」にある限りに於いてのみ有効であるということである。 過去のデータからこの「長期の税収弾性値」が1.1であると推定されたからといって、では何らかの方法で足元の名目経済成長を5%にすれば5.5%の税収の伸びを継続的に達成できるというわけでは無い。

「長期の税収弾性値」の推測のベースとなった「潜在成長経路上」にある過去の経済成長が実質成長率 1%、名目成長率 2%であったとするなら、この数値から外れた想定(例:名目成長5%)に対して長期の税収弾性値(1.1)を適用する場合にはかなり楽観的な予測となりうることを強く意識すべきである。


つまり税収弾性値を将来予測に使う場合には、少なくとも、

  • 「短期の税収弾性値」はGDPギャップが埋まるまでのみ有効
  • 「長期の税収弾性値」は「潜在成長経路上」にある場合のみ有効

の2点については留意すべきであり、更に、日本の場合、人口動態等を考えると「長期の税収弾性値」の推定を行った期間の潜在成長率よりも現在の潜在成長率が下回っている可能性が高く、その面でも楽観的になりすぎないように注意が必要ということになる。


[追記]
話は変わるが、「税収弾性値=4」説を唱えはじめたのは金子洋一議員のようである。対象の期間については1995年から2009年の15年間とされているが、計算結果自体は調べた範囲では見つけられなかった。 ただ、Twitter等での説明どおりにとるなら以下のような単純な計算によっているものとみられる。

確かに平均を取ればほぼ4になるが、これを名目成長率と税収弾性値(税収伸び率/名目成長率)、名目成長率と税収伸び率でプロットすると以下のようになる。 

これが偏ったデータに見えるのは筆者だけだろうか?