米国の個人消費って回復してるの??

クルーグマンがブログでQE2の波及メカニズムについて検討を加えている(参照)のを、「クルーグマン経済学の翻訳ブログ」様で読ましていただいた(参照:量的緩和の伝達メカニズム(オタク風))のだが、その中で気になったのは米国経済の回復を個人消費が牽引しているという箇所である。


米国は失業率は高止まりしており、ドル安によって輸入価格は上昇している。そしてそれに輪をかけて資源価格は急騰している。通常なら個人消費は逆に抑制されてもおかしくない。 その様な状況下での個人消費の回復についてクルーグマンは株価が上昇したことによる資産効果ではないかと示唆しているが、資産効果にそれだけの影響力があるのかどうか疑問が残る。


又先日読んだ以下のFinancial Timesの最新の記事(6月16日)では逆に米国の個人消費が非常に弱く、回復の見込みも立っていないとしている。

世界経済を脅かす米国の「ゾンビ消費者」

世界経済は新世代のゾンビ(経済的な生けるしかばね)に足を引っ張られている。米国の消費者は前例のない家計引き締めの初期段階にある。2008年初頭以降の13四半期を平均すると、インフレ調整後の消費の成長率は年率換算0.5%だ。第2次世界大戦後、米国の消費動向がこれほど長期にわたって弱かったことは1度もない。


で、結局の所、米国の個人消費は回復しているのだろうか?


ちなみに米国同様にリーマンショック後に量的緩和を行った英国では状況ははっきりしている。失業率は高止まりし、インフレ率は上昇、そして個人消費は低迷している。 又、非常に低い実質金利にも関わらず企業投資も期待されたほどの伸びを見せておらず、(悪天候の影響はあったとは言え、)2010年のQ4は-7.1%という酷い状況だった。


これらのことを考えると筆者の見解としては、資産効果を背景に景気回復を継続的に牽引できるほど個人消費が回復するというのは無理があるような気がする。クルーグマンがデータを示しているように一時的な個人消費の回復は確かにあったのだろうが、中長期的な見通しとしてはFTの記事の見込み、つまり

■弱い消費に回復の見込み立たず

米国のゾンビ消費者にとって持続可能な選択肢は、支出削減とレバレッジ解消と貯蓄しかない。退職年齢を迎えはじめた総勢7700万人の老いゆくベビーブーマーにとっては、特にそうだ。

日本のゾンビの場合と同じように、米国の消費者の慢性的な弱さがすぐに終わる見込みはない。債務負担と貯蓄率がより持続可能なレベルに戻るまでには、少なくともあと3年から5年はかかるのではないかと筆者は思っている。


という見方のほうが正しいのではないかというのが筆者の見解である。


(注1)
とは言え、個人消費については体質(国民性?)的な部分もかなりあるので、楽観的な(記事内の表現を使えば「無謀な」)個人消費が全体としては経済の急回復に繋がる可能性も"米国では"まだありうるかもしれない。 英国では無理そうだが、、、


(注2)
ちなみにFTの記事では資産効果について以下のように指摘している。

■ゾンビの延命図る米政府

日本の銀行と同じように、ワシントンの政策当局はあらゆる手段を講じて合理的な経済調整を防ごうとしている。米連邦準備理事会(FRB)は2度にわたって量的緩和政策を実施し、誘発した株価反発の資産効果を消費者に使わせようとした。議会とホワイトハウスは、住宅差し押さえの抑制やその他の債務減免策を受け入れた。


狙いは、大不況によって家計のバランスシートが深刻な打撃を受けたにもかかわらず、問題を無視して再び消費し始めるようゾンビ消費者を促すことだ。ここに隠された意味合いは、米国政府が無謀な行動の復活を黙認しているということだ。


驚くまでもなく、米国の消費者は米国の政策当局者よりも賢明だ。財政・金融政策が持続不能な状況にあるため、家計は「生命維持」を図るこうした対策がよくても一時的であることを知っている。家計は自らの手で問題に対処しなければならないわけだ。


標準以下の労働所得や歴史的な高失業率、そして2400万人もの米国人が不完全就業状態にあることは、緊縮の必要性を強めるばかりだ。