高橋洋一氏の「「デフレ人口原因論」の間違い」論の不思議

高橋洋一氏が再びZAKZAKで「デフレ人口原因論」批判をしている。 氏の「デフレ人口原因論」批判については以前にも取り上げたことがある(参照)が、今回は少し切り口が変わっている感じがするので再度考察してみたい。

「デフレ人口原因論」の間違い 金融緩和が効かないという議論は、百害あって一利なし 

昨年のコラムで人口減とデフレには何の相関もないことを書いた。しかし、年末年始に「日本のデフレは金融緩和の効かないもので、その原因は人口減による供給過剰である」という「デフレ人口原因論」が多く出ている。読んでみたが、一言でいえば、デフレという用語法の間違いである。

 デフレとはdeflationの日本語訳で、その意味は「一般的な物価水準の持続的下落」。国際機関などでは、GDPデフレータが2年続けてマイナスの場合をいう。

 ところが、デフレ人口原因論での「デフレ」は、耐久消費財などの個別品目の価格の下落を意味している。この「デフレ」は、「deflation」とは違う現象である。要するに、ミクロ経済現象をマクロ経済現象と混同しているのだ。

文面を読む限り「人口減少は経済(物価)になんの影響も与えない」というような極端な主張ではなく、人口減少による非耐久財などの個別価格への影響はミクロ経済現象であるのに対し、本来の定義上のDeflationはマクロ経済現象であるため関係ない、という説明のようである。


ここで高橋氏が紹介しているDeflationの国際的な定義は「GDPデフレータが2年続けてマイナス」というものである。 GDPデフレータは名目GDPを実質GDPで割ったものであり、実質GDPは一般に

最終財・サービスiの基準年における価格がPiで、今年の価格がQiとする。またiは今年Xi個売れたとする。
このとき、今年の実質GDPは
実質GDP = Σi PiXi
により定義される。ここで和Σiは全ての最終財・サービスを渡る。
一方今年の名目GDPは
名目GDP = Σi QiXi
である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%86%85%E7%B7%8F%E7%94%9F%E7%94%A3#.E5.AE.9F.E8.B3.AAGDP

と定義されている。 

人口減少が原因で非耐久財の個別価格の下落が起こったのであれば、それは多数の(Pi、Qi)を通じて実質・名目GDPに影響を与えるはずであり、一概に「混同している」と切って捨てられる話ではないはずである。


何故高橋氏がこのような主張をするのか不思議に思っていたが、氏のTwitterを拝見したところ、その点についての解説があった。

一般物価と個別価格の概念の違いが理解できない人が多いな。耐久財と非耐久財があるとして、耐久財の個別価格が下がる時をイメージする。ベースマネーが一定の場合、非耐久財の個別価格は上がる。その理由は耐久財が安くなる分余裕ができて非耐久財を買うから。続く
http://twitter.com/YoichiTakahashi/status/23004760453939200

だから耐久財の個別価格が下がっても一般物価は変わらない。これが理解できない人は一般物価と個別価格の差がわからないだろう。「デフレの正体」を読んで納得した人は、これがわからないのだろう。
http://twitter.com/YoichiTakahashi/status/23005498139746305

つまりベースマネーが一定の場合、ある財の個別価格が下がったらその分他の財の個別価格が上がるからマクロ的には物価に影響を与えないという理論のようである。

非耐久財の大物である家の建築費用が4000万円から3000万円に下がったら、みんながみんな家を建てた年に1000万円分の非耐久財を買うとでも言うのだろうか?

そもそもこれが事実なら極端な量的緩和なんてしなくてもベースマネーの伸びをマイナスにさえしなければデフレは起こらないはずであり、氏の持論である巨額の需給ギャップを埋めろという話とどう繋がるのかも分からない。


筆者は「デフレの正体」を読んだわけではなく、その本の主張の是非について分からないが、高橋氏の批判だけを見ると、その論法にはなにか納得できないものを感じるのである。


(追記)
ちなみに筆者は人口減少はデフレ圧力の一つではあるものの、デフレの原因としては2,3番手ではないかと考えており、又、人口減少が原因だから金融緩和は全く効かない、と考えているわけではない。


参照: 高橋洋一氏 ニュースの深層「白川日銀「量的緩和」はどれほど効果があるか」について
http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20101208/1291813935