安倍首相「倒産件数は24年間で最低」の背景

安倍首相がアベノミクスの成果として株価以外に強調しているのは雇用と倒産件数らしく、演説などでも「倒産件数は24年間で最低」 「民主党政権時代よりも2割、倒産を減らしている」とその成果を繰り返しているようだが、この成果を考えるにあたっては少なくとも以下の三つの背景は知っておくべきであろう。


1. 安倍政権誕生前の2012年度の倒産件数もその時点では過去22年間で最低レベルだった。又、そもそも母数となる企業数自体が基本的に右肩下がりとなっている。

2. 民主党政権時代の2009-2012年の3年間も倒産件数は平均して年8%近く減少している。

3. 2012〜2013年度の倒産件数減少の内訳をみると、件数でも前年比でももっとも大きく減少したのが建設業で、これはアベノミクス第二の矢である公共事業の大盤振る舞い(2013 年度の一般会計の公共事業費決算額は 8.0 兆円で2012年度5.8 兆円と比べて4割近く増加)が主たる要因と思われる。


安倍首相の立場を考えれば企業倒産数が減少していることを成果としてあげるのは当然のことであろうが、上記のような背景を知ると「倒産件数は24年間で最低」は、「民主党政権が達成していた「22年間で最低」の倒産件数を公共事業を大盤振る舞いしたりすることで「24年間で最低」までもってきただけ」と言い換えることもできそうである。公共事業は自民党政権のお家芸ではあるが、それが無くても復興需要に増税前の駆け込み需要と盛りだくさんだった建設業界に更に公共事業まで押し込んだのが本当に費用効果の高い対策だったかどうかは疑問が残ると言わざる得ないだろう。 


最後に念の為書いておくと、筆者は民主党政権の経済政策を評価しているわけでは全くない。リーマンショック後の日本のように外的な要因によって経済が負のショックを受けたようなケースでは通常はその外的な要因がある程度解消(もしくは沈静化)されれば自律的に回復するわけで、実際にリーマンショックから欧州財政危機へとつながった今回の危機が漸く沈静化した2012年の後半には日本も自律的に回復に向かっていたと筆者は評価している。そしてアベノミクスはすでに回復に向かっていた日本経済にとって副作用が強い割に(今回考察したように)その効用がいまいちはっきりしない劇薬だったのではないかというのが筆者の理解ということになる。