市場の需給ギャップは2003年頃にはほぼ解消されていたのではないか?

前回のエントリーでは大雑把に言えば日本の膨大な需給ギャップ(と呼ばれてきたもの)の要因は人口動態による耐久消費財の需要減と日本が豊かになっていく中で国際競争力を失った国内産品に対する構造的な需要減であり、又、ある特定の市場に於ける需給ギャップは、参加企業の生産性の向上を促し、同時にそれについていけない競争力の弱い企業の衰退・撤退によって供給が調整されて需給ギャップは解消され、その過程で価格の低下と余剰労働力の放出が行われるという事になるのではないかと考察した。


この一連の流れの中では様々な市場の需給ギャップは中長期的には労働市場の需給ギャップ、つまり失業率に収斂される。


具体的に日本の需給ギャップが如何に推移してきたかという事については、一つの検証材料としてサブプライム危機までの数年間、日本企業は売り上げ・経常利益共に順調に伸ばし、特に後半の1,2年間は過去最高レベルの数字を残していたというデータがある。

この期間は依然デフレ・低インフレが続いており、給与も下がり続けていたが、企業の業績を見る限り既にこの時点で全体としては(需給ギャップ→生産性向上→労働力の放出→需給ギャップ解消&利益増大)の流れはある程度完了していたことになる。 

実際に同期間はデフレであるにも関わらず失業率は数年にわたって安定的に低下しており労働市場の需給ギャップも解消に向かっていた。又、これまでの話を逆に考えれば労働市場の需給ギャップが解消するということは、その他の市場の需給ギャップが全体としてはマイナス(需要>供給)になっていると考えられる。



ここでリーマンショック前の日本の失業率(2007年)をみてみると約3.9%で、バブル期の2%と比べると約2%増加している。よってこの約2%が労働市場の需給ギャップとも考えられるが、OECD推計によると日本の完全雇用失業率は4%±0.3%ということであり、この推計が正しいとするとリーマンショック前までにはほぼ労働市場における需給ギャップは解消されていたという事になる。


この2回のエントリーはどちらかと言えばマクロ的な概念である「需給ギャップ」についてミクロ的な視点からどのように考えることができるかを考察したもので、ここまで一般的に論じられているマクロ的視点からの「GDPギャップ」の推計値については敢えて触れてこなかったが、実際に内閣府の関係者が発表した「GDPギャップ」の推計値を見てみても2007年にはプラスになっていることがわかる。



以上をまとめると本考察の結論は

  • 人口動態や国際競争力に影響を受ける市場は長期的な少子高齢化・円高傾向のもと、構造的な需給ギャップ拡大圧力を受け続けてきた。
  • 特定の市場に生じた需給ギャップは企業の淘汰や生産性向上努力を通じて、中長期的には労働市場の需給ギャップ(失業率)に集約される。
  • よって労働市場の需給ギャップ(失業率)が安定的に減少している期間は、その他の市場の需給ギャップは全体ではマイナス(需要>供給)になっている。
  • 日本の場合、労働市場を除く市場の需給ギャップは失業率が安定的に減少し始めた2003年頃には既に全体としては概ね解消されていた。(よってこの時期(2003-7)は企業経常利益も順調に伸び、特にその後半では過去最高水準の経常利益を記録していた)
  • 失業率が4%に近づいた2007年頃には労働市場の需給ギャップもほぼ解消しており、日本経済は全体としては需給ギャップが問題とならない状況となっていた。

という事となる。


尚、念の為、誤解が無い様に書いておくと、「構造的な需給ギャップ拡大要因が存在する」という指摘は「それ以外の需給ギャップ要因が存在しない」という主張を全く含んでいない。むしろ構造的以外の需給ギャップ要因が存在するのは言うまでも無いだろう。筆者としてはここで取り上げた構造的要因が日本の需給ギャップの主たる要因であると考えてはいるが、そのことを定量的に証明できるわけではない。(状況証拠的説明なら幾つか可能ではないかと考えているが、)


但し、構造的であろうがなかろうが、中長期的には需給ギャップは雇用・失業率の問題となるはずであり、そうであれば安定的に失業率が減少し始めた段階で、労働市場以外の需給ギャップは全体としてはほぼ解消されていたという説と矛盾するわけでは無いはずである。