東電が免責されないとどうなるか、

福島の原発事故に関する東電の損害賠償については、原子力事業者による損害賠償を定めた「原子力損害賠償法(原賠法)」の例外規定(下記)を適用するかどうかが焦点となっている。 

[ 原子力損害の賠償に関する法律・第三条第一項 ]

原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。

今回の震災がこの免責規定にある「異常に巨大な天災地変」に当たるかどうかということが一つの争点になるが、枝野官房長官は以下のように述べ、今回の震災はこれに当たらないと答弁している。

官房長官は、原子力損害賠償法で原子炉の事故による損害は事業者に無過失責任が規定されていると指摘。同法は「異常に巨大な天災地変または社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでないと例外規定があるが、1961年の国会審議で、異常な天災は人類の予想していない大きなもので全く想像を絶するような事態と説明されている。国会などでも(今回のような)津波によって(原発が事故に)陥る可能性について指摘されており、(今回の震災は)大変巨大な地震だが、人類が過去に経験した規模」として、例外規定に該当する可能性はないとした。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-20905920110502


法律上の解釈はさておき、もし今回の震災が免責規定に当たらないとされ、東電が無制限の賠償責任を負うことになれば何が起こるだろうか?


もしこの免責規定が最初から無かったとすれば、東電は有事の際の莫大な賠償責任に対応するために何らかの形でより多額の保険に加入していたのではないだろうか。そしてその保険の費用は従業員の給与削減ではなく電力料金に加算されることによって回収されていたはずである。

そして政府がこの法律(原賠法)で意図していた(はずの)事は、このような非常に稀なケースについての保険を政府が受ける代わりに税金やその分割安な電力料金で日本経済に寄与させることだったのではないのか?


ところが今回のケースでは、この保険屋(政府)はいざ事故が起こった後に、賠償金を払わないと言い始めた。もちろんこれまでの保険金(税金、その分割安な電力料金)を返してくれるわけでもなさそうである。


今回の事故に際して東電にどれほどの非があったかは明らかでは無いが、もしこれが通常の保険であれば、保険会社が設定した基準を守り、かつ保険会社が任命した委員会の監査も受け続けてきたわけであるから保険がちゃんと支払われるケースのはずである。


東電以外にも同様に免責によってコストを最適化している企業は存在するだろう。そして今回の経緯を見れば、彼らはたとえ保険金が高くてもちゃんと払ってくれる保険に入ろうと考えるのではないだろうか? 


長期的に見れば、このような政府による免責の反故は企業が予期すべき最悪ケースをより極端なものとし、その分保険費用が増え、消費者の負担が重くなる。又、政府が民意に後押しさえされれば幾らでも恣意的な運用を行うと皆が考えれば、保険以外の部分でも企業・個人がみずから対処すべき事象の幅は大きく広がるだろう。


個人・企業が政府を信じずに自らの力であらゆる事象に対処するという状態が必ずしも間違っているというわけでは無いかもしれないが、それは全体最適(パレート最適)な状態ではないと筆者は考えている。 東電をつぶせと主張する人は、それが更なる自己責任型の経済へと繋がり、一消費者としては長期的にはかなりの負担増となりうることを理解すべきであろう。