今は「市場メカニズム」の出番ではない

今回の巨大地震と津波で被災された皆さまには心からお見舞いを申し上げますと共に亡くなれた方々のご冥福をお祈りいたします。

又、このような事態に至ってもあらゆるレベルであらゆる人々がその職務を全うすべく死力を尽くされていることは遠く日本を離れていてもはっきりと伝わってきます。 警察・消防・自衛隊・交通機関・インフラ会社・その他被災地の為に努力をされているあらゆる企業・団体の方々には深い感謝と敬意を示すと共に、その様な方々が職務に殉じるようなことが絶対に起きない様にと願っております。   

Pray for Japan!
http://prayforjapan.jp/tweet.html

                    • -


その様な中、災害への対応について「経済学的?」見地からの意見がちらほら出てきたようであるが、その中にこういう時でも(こういう時こそ?)「市場メカニズム」は有効であるという意見がある。


はてなの人気エントリーで目についた以下のTweetは、その典型にして類型であるが、筆者としてはそれは違うだろと言いたい。

地震に乗じて値上げする企業を批判するのは違うでしょ。値上げによって本当に必要な人に数少ない商品が分配される。無料提供は素晴らしいことだけど、数が大量にあるからこそできること。


今必要なのは市場メカニズムではなく道徳心と計画性のはずである。


市場メカニズムが肯定されるのは、それが「長期的には」全ての人々の効用を上げる結果につながるからである。 その背景には各自が利己的に振舞ったとしても長期的には資源が適正に分配されるという理論があるが、現在は供給が制限されており、市場メカニズムに従って分配することが本当に必要な人々に財・サービスを分配することにつながる保証は全く無い。 (むしろその逆のことが起こりうると信ずるに足る証拠ならいくらでもある)


むしろ今求められているのは個人に対しては道徳心であり、政府や各企業に対しては専門知に基づく計画性のはずである。


計画停電はその一つの例である。電力需要が供給力を上回った状態で供給を続けると、最終的には全域が停電する恐れがあり、計画停電はこうした事態を回避する狙いがある。手際に問題があったとしても政府・東電は限られた供給能力を最大限有効に発揮・分配するために必要な処置をとろうとしており、一方で国民は道徳心から積極的に節電を心がけようとしている。 結果として節電が達成された分だけ、計画停電の影響は最小限に食い止められる。


現在の状況は残念ながら利己的に行動することが個人としてのリスクを減らしリターンを高める状況にある可能性が高い。食料品の買いだめにしても他人が買いだめせずに自分だけが買いだめをすれば、短期的には食料品に困るリスクを減らす事ができるし、取り立てて目立ったデメリットは無い。 しかしこれをみんなが行えばあっという間に店頭の食料品は枯渇するし、それを値上げで防ごうとすれば経済的な制限から食料品を買えなくなる人が出てくる。

このような事態を短期的に防ぐには個人が道徳心をもって過度の買いだめを行わず、商店も道徳心をもって人々の足元をみて値上げするようなことをせず、一方でもしその個人レベルの努力で足りなければ権力が介入するしかないはずである。


もちろん震災からの短期的な復興を達成した後であれば話は変わってくる。 市場メカニズムに基づいた経済の復興は日本の震災からの復興には必要不可欠である。 しかし少なくとも今しばらくの間は「市場メカニズム」の出番では無いだろう。 今は人々が道徳心で被災者の方の苦痛を最小限に押し留めると共に政府はありとあらゆる専門知を駆使して、混乱が最小限に抑えられているうちに計画的に復旧を成し遂げるべき時である。 

今回の被災直後の様子で分かるとおり日本の民度が世界最高水準である事は間違いないが、民度で混乱を抑えるのには限度がある。この奇跡的に保たれている秩序を復旧にまで繋げることができるかどうかが最重要であり、政府の使命である。筆者は民主党支持者では無いが、今舵を取れるのは民主党であり、死力を尽くしてがんばって欲しい。



参照:
自由主義経済はどこまで正しいのか? - アダムスミスのもう一つの「見えざる手」

http://d.hatena.ne.jp/abz2010/20110303/1299157020